アメリカCS博士課程 前半2年間の記録(PhD Candidateになりました)
私はペンシルベニア州立大学 (Penn State University) の博士課程に在籍して自然言語処理の研究をしています。2023年8月に博士課程に進学してから約2年が経過しました。
アメリカの博士課程は5年での卒業となる場合が多く、だいたい2〜3年目くらいでComprehensive Examなどの名前で呼ばれる中間審査のようなものがあります。CSで博士審査と同じような内容の場合が多く、PhD課程前半の研究についてdissertationの提出と研究発表を行います。すべてのコースワークを終了してComprehensive Examに合格するとPhD Candidateと呼ばれるようになります。
2025年4月にComprehensive Examを終えてPhD Candidateとなったので、区切りとしてこれまでの2年間について記録を残します。
授業
アメリカの博士課程の前半では日本の修士課程と似たようなイメージで授業を履修して学位要件を満たす必要があり、一般的に2年くらいは授業を受けることになります。私は修士号を持っているため必要な単位数が少なく、各学期に1、2科目だけ履修すれば良いので比較的余裕がありました。逆に言えば修士号を持っていても授業を受ける必要があります。修士号を持っていない学生は各学期に3科目くらい履修していることが多いので、あんまり研究に時間を割けない人もいるようです。ちなみにアメリカでは1科目で週2、3回の授業があります。
私は Department of Computer Science and Engineering (CSE) に在籍しているので、必修として研究との関連が薄いアルゴリズムやシステムの授業を履修しないといけないことが面倒でした。研究を最優先に考えたかったので、それ以外についてはNLPなど自分の専門分野についての授業を履修しました。学部の授業と同様に試験が複数回あるものから論文の輪読をする授業などもあり負担が授業ごとに大きく異なるため、研究に集中したい場合には注意が必要です。
English Qualification
入試の時点でTOEFLのスコアを提出しますが、留学生は入学後にも英語の試験を受ける必要がある大学が多いです。Penn StateのCSE学部では大学が課している試験(AEOCPT)とCSE学部が課している試験の両方に合格する必要があります。大学の試験は面接で、学部の試験は筆記試験でした。
特に大学が課している面接試験は合格できない人も多いらしく、不合格になった場合は英語の授業を履修する必要が出てくるので面倒なのですが、私はなぜか合格することができました。大学のウェブサイトで試験の内容が公開されており、面接の概要が書いてあったので準備をしていたのですが、おそらく対策をしていない学生が多いのだと思います。
しかし、不合格になった場合に履修する英語の授業で学部の違う留学生同士が仲良くなるというのも定番らしく、それはそれで得るものがあったかもしれません。
Qualifying Exam
アメリカの博士課程の入学試験にはペーパーテストは無いですが、入学後にQualifying Examという筆記試験が行われる場合があります。Penn StateのCSE学部ではアルゴリズムとOS・Architectureの2個の試験に合格する必要があります。
Penn Stateでは学期に1回だけ受けることができ、基本的には3回以内で合格する必要があります。指導教員の許可が出れば何回でも受けられるようですが、合格しないとComprehensive Examを受けることができず、もちろん卒業もできません。
私は統計学科の出身なので特にOS・Architectureについては知識が無かったのですが、1ヶ月ほど(真面目に勉強したのは2週間くらい)の勉強期間で合格できました。学部科目レベルの問題なので難易度が高いわけではないのですが、研究と関係がない内容なので面倒です。あんまり対策をしていない学生もいるので、何回も不合格になることも少なくありません。
Qualifying Examについては時間の無駄という意見が教員の間でもあるらしく、年々簡単にはなっているようです。しかも、大学や学部によっては筆記試験ではなく研究についての発表などで代替されている場合もあるようです。Penn StateでもCSEでは筆記試験がありますがIST学部では研究発表で代替されているようです。羨ましい。
TA
アメリカの博士課程の学生は、多くの場合はTAもしくはRAとして働くことで授業料を免除されて生活費を支給されます。RAであれば多くの場合は雑用はほとんどなく研究に集中できますが、いろいろな都合でTAとして働くこともあります。また、アカデミアに残る学生はTAを経験する場合が多いですし、学位取得要件としてTAを行う必要がある大学もあるようです。
私の場合はCSE学部の資金状況が悪かったこともあり、TAを3学期やりました。私は指導教員や共同研究者が担当している授業のTAだったので仕事量は週に2〜3時間程度と少なかったのですが、学部生の必修科目など仕事の多い授業の担当になると週10時間以上の仕事になることもあるらしいです。教員職を目指していない場合は、TAは避けられるなら避けたいですね。
研究
主著論文としては1年目の研究が国際学会とジャーナルに採択され、2年目に行った研究の論文2本が国際学会の査読中です。半年に1本くらいなのでペースとしては可もなく不可もないところですが、NeurIPSやICLRなどにも通したいので今後は質にこだわって研究を行いたいですね。
卒業の要件は指導教員によって異なりますが、私の指導教員には主著で5本くらいは国際学会・ジャーナルの論文があることが目安と言われています。しかし、最近はNLP分野での就職が厳しすぎて、そもそも研究職に就くには5本くらいは当然に必要という雰囲気もあるので卒業要件を気にしている人は少ないと思います。
ただし、周りの学生などからインターンや就職についての話を聞いていると、当たり前ですが選考では論文の本数よりも内容が重視されている印象があります。そもそも研究の質だけでなく希望しているチームとテーマが被っているかどうかも重要なので難しいところですが・・・。